社内業務で外れる Agent の主因は、モデル能力の不足より、社内手順が渡っていないことと、「合格」が未定義なことです。一般調査はできます。申請経路、権限、例外時の確認先は学習データにありません。プロンプトを足す前に、できることを Skills(SKILL.md)へパッケージし、挙動を Eval で測ります。テクノロジーの導入では、1業務を選び、同じ週に Skill 1本と自由回答 Eval 数件を作るところから始めます。

📑目次
  1. 社内Agentに足りないのはモデル能力ではなくオンボーディング
  2. SKILL.mdで手順をパッケージする
  3. SkillsとMCP・都度検索の判断基準
  4. 自由回答Evalで実務の合格ラインを定義する
  5. テクノロジー導入チェックリスト(1業務から始める)
  6. よくある質問
  7. まとめ

社内Agentに足りないのはモデル能力ではなくオンボーディング

社内 Agent が的外れなのは、モデルが弱いからではありません。権限、申請経路、例外時の確認先が、学習データに無いからです。優秀だが未オンボーディングの新入社員と同じ状態です。

独立ソースが揃える定義

複数の独立した出典が、同じ根本原因をそれぞれ異なる表現で指摘しています。

  • Pinggy は Skills を、new hire 向けオンボーディングガイドと定義しています。コーディング規約やプロジェクト慣例を文書で渡すのと同じことを、Agent に対して行います。
  • SSW Rules は、tribal knowledge や社内フレームワークが学習データに無いときに Skill 化すると書いています。
  • connect24h は、差がつくのはプロンプト調整ではなく、オンボーディングと Skills & Eval の設計だと述べています。

1組織パイロットの数字

松尾研究所は2026年8月20日に公開したZenn記事で、Notionの新入社員向け文書をCodex Skills化し、「知識なし」「Notionを都度検索」「Skills活用」の3条件を比較検証しました。

独立した再掲として ぴすけ が、項目正解率 33.0% / 87.3% / 96.0% を同日に伝えています。

  • 実験は1組織・15課題のパイロットです。自社の合格ラインには使えません。
  • テクノロジーの現場では、この数値を宣伝材料にせず、自業務の Rubric を先に書く必要があります。

出典(2026年8月時点):


SKILL.mdで手順をパッケージする

Skill は「何をするか・いつ使うか」を YAML に書き、手順は Markdown、詳細は references/、決定的処理は scripts/ に分けるフォルダです。Agent Skills 仕様 では、最低限 SKILL.md を含むディレクトリが単位です。プロンプト(会話単位の一回限り指示)とは別物です。

手順

手順は次の通りです。

  1. ディレクトリ名を name と一致させる。小文字・数字・ハイフンのみ、1–64文字。先頭末尾ハイフンと連続ハイフンは不可です。
  2. description にトリガー語を入れる。1–1024文字。「Helps with X」は弱いです。何をするかと、いつ使うかを書きます。
  3. SKILL.md 本文は 500行未満、約 5k tokens 未満を目安にします。条件、順序、完了状態、情報不足時の確認先、文書間の優先ルールを書きます。
  4. 詳細は references/ へ。相対パスは Skill ルートから1段までです。skills-ref validate ./my-skill で frontmatter を検証します。

起動時のコスト

起動時に載る metadata は Skill あたり約 100 tokens です。50 Skills でも約 5,000 tokens の「目次」コストです。本文は該当時だけロードします。scripts の本体はコンテキストに入らず、出力だけが入ります。


仕様上の制限

ただし制限もあります。

  • name に anthropic / claude は使えません。
  • Custom Skills は claude.ai / API / Claude Code で同期しません。
  • API Skills はネットワーク不可、実行時パッケージ導入不可です。Claude Code 側はフルネットワークです。
  • Agent Skills は ZDR 対象外です。
  • API 利用には beta headers code-execution-2025-08-25 / skills-2025-10-02 / files-api-2025-04-14 が必要です。

Databricks の対比

Databricks は、コーディングアシスタント向けに databricks aitools install を公開しています。主な引数は次です。

  • --agents claude-code
  • --scope project
  • --skills bundles,sql

公式の対比は「Skills teach how; MCP lets it do the work」です。社内手順をSkillに、ライブ操作はMCPに残すという分担は、仕様側でも一致しています。

出典(2026年8月時点):


結論を変える条件が安定している社内ルールはSkillに登録します。在庫状況や権限の現状、最新ドキュメントはMCPか検索に任せます。両方を使う場合は、Skill側に「いつどのツールをどう使うか」を明記してください。

観点 Skills MCP / 都度検索
答える問い どう進めるか(手順・社内流儀) 今何に届けるか(ライブデータ・ツール)
形 SKILL.md + 任意の scripts/references 実行中サーバ / 検索+fetch
アイドル時コスト 約100 tokens/skill ツール定義+プロセス / 毎回検索
向く変化 方法・優先ルール・完了定義 呼び出しごとに変わるデータ
失敗 説明の誤解釈、description 不一致で発火しない 検索漏れ、古いページ、遅延、コンテキスト肥大

出典(2026年8月時点):

独立ソースの判断ヒューリスティック

  • LlamaIndex は、MCP をスキーマ付きで決定的だが、発見コストとネットワーク遅延があると整理しています。
  • Skills は軽い一方、how をモデルが解釈するため非決定的です。
  • ドキュメントが速く変わる領域では、手動更新 Skills より Docs MCP の単一情報源が勝った、と報告しています。
  • Pickaxe も、呼び出し間でデータが変わるなら MCP、変わるのが method / house style なら Skill、というヒューリスティックを書いています。

Skills 対 Notion 検索のパイロット

松尾研究所のSkills対Notion検索の比較では、次の差が確認されました。

  • 項目正解率 96.0% 対 87.3%
  • 応答時間中央値 60.4秒 対 94.0秒(約36%短い)
  • 平均入力 token 48.6k 対 219.5k(約78%少ない)
  • Notion 条件は 45回答で search 217回 / fetch 272回

検索そのものが悪いのではなく、安定した優先ルールを毎回探させるコストが大きい、と読むのが実務的です。


自由回答Evalで実務の合格ラインを定義する

Skillを渡しただけでは「仕事ができる」とは言えません。Evalこそが合格の定義そのものです。

Anthropic の用語

Anthropic の evals 解説 では、次を分けます。

  • task
  • trial
  • grader
  • transcript(発言の軌跡)
  • outcome(環境の最終状態)

「予約しました」と、DB に予約があることは別です。Agent eval はモデル単体ではなく、モデル+harness を測ります。継続評価の置き方は、MLOpsの継続的学習とエージェント評価|Demo Hellを避ける実務設計 とも重なります。


3段階の測り方

松尾研究所は3段階の評価手法を用いました。

  1. 一問一答(事実を知っているか)
  2. 自由回答(実務成果物)
  3. 作業完了(ツール操作の outcome)

最初の一問一答は消去法で解け、実務を測れませんでした。選択問題の正答率が高いだけでは、本番に出せません。LLM が推測で埋める構造は、LLMが「わからない」と言えない構造と、実務で封じるプロンプト/検証設計 でも別角度から扱っています。


Eval の書き方

手順は次の通りです。

  1. 実在の問い合わせ・失敗事例から課題を書く。選択問題にしない。
  2. 含めるべき項目を Rubric 化する。危険行為は critical を別枠にする。承認なし外部公開、事故を報告せず削除だけ、アクセス削除漏れが例です。
  3. 主要指標は項目正解率(文言一致ではなく意味充足)。補助は critical failure rate、応答時間、token、ツール回数です。
  4. 条件名を隠して複数 trial する。LLM-as-a-judge なら独立判定の一致率を見る。同実験は 972項目中 951 一致(97.8%)でした。
  5. 人が止まるべき・聞くべきケースを Eval に含める。The Main Thread は、手続きを Skill にパッケージし、止まる/人に聞くケースを含む realistic evaluations を回せ、と書いています。
条件 項目正解率 Critical failure 応答時間中央値 平均入力token
知識なし 33.0% 100.0% 64.2秒 41.9k
Notion都度検索 87.3% 42.2% 94.0秒 219.5k
Skills 96.0% 15.6% 60.4秒 48.6k

出典:松尾研究所(Zenn)、独立再掲 ぴすけ(2026年8月時点)。

  • 15課題×3条件×3試行のパイロット
  • 人間専門家の成果物品質採点はなく、業務 outcome は未測定

制限

制限を先に明確にしておきます。


テクノロジー導入チェックリスト(1業務から始める)

全部を一度に作ろうとしてはいけません。テクノロジーとしての社内Agentは、1つの業務についてSkillとEvalが揃ってから段階的に広げていくべきです。

  1. 対象業務を1つ選ぶ。申請、初動、レビューなど、結論を変える条件が書けるものです。
  2. 人間向けオンボーディングから、条件 / 順序 / 完了 / 確認先 / 優先ルールを SKILL.md と references/ に移す。
  3. 会社共通 Skill はレビュー付きリポジトリ、プロジェクト Skill はリポジトリ内に置く。第三者 Skill は実行前に全文を読む。SSW は、Skill は設計上プロンプトインジェクションだと注意しています。
  4. 同じ業務の自由回答課題を少なくとも数件作る。critical 項目と「止まって人に聞く」ケースを含める。
  5. 知識なし / 検索 / Skills を同じ課題で試し、項目正解率と critical failure を見る。数字が良くても outcome 未確認なら、人の承認を残す。
  6. Notion 等のソースが更新されるなら、Skill の再生成経路を先に決める。手動追従は続きません。ドキュメントが週次で変わる領域は、Skill より MCP / 検索を優先します。

判断基準は次の通りです。

  • 手順が安定している → Skill
  • データが都度変わる → MCP / 検索
  • 合格が文章の体裁だけ → Eval を作り直す
  • critical failure が残る間は、承認なしの外部公開や権限変更を Agent に任せません

よくある質問

Skills を入れれば社内検索(Notion / RAG)は不要か?

不要ではありません。安定した手順と優先ルールは Skills、呼び出しごとに変わるデータは検索 / MCP です。両方使うなら、Skill 側に「いつ検索するか」を書きます。


SKILL.md に社内Wikiを全部貼ればよいか?

だめです。起動時に載るのは name / description で約100 tokens です。本文は 500行 / 5k tokens 目安で、詳細は references/ に分割します。全部を常時コンテキストに載せると、発火精度もコストも悪化します。


一問一答の正答率が高ければ本番に出せるか?

出せません。選択式は探索範囲が狭く、一般知識で当たることがあります。実務成果物の Rubric と、可能なら outcome(実データの変化)を見ます。


公式の Agent Skills は Claude 専用か?

形式は agentskills.io のオープン標準です。Databricks や Copilot 等もロードします。ただしインストール場所と同期は製品ごとに別管理です。Custom Skills のクロスサーフェス同期を期待しないでください。


コミュニティの Skill をそのまま使ってよいか?

使いません。全文を読み、シェル実行や秘密情報への指示がないかレビューします。社内 Skill は PR レビュー対象です。


関連記事:

まとめ

社内 Agent の差分は、プロンプト量より、手順のパッケージ(Skills)と合格定義(Eval)です。SKILL.md は description で発火し、本文と references で段階ロードします。MCP / 検索とは役割が違います。

次の一手は、1業務で Skill 1本と Rubric Eval 数件を作ることです。critical failure が残る間は、人の承認を外さないでください。

krona23

著者

krona23

IT業界20年以上の実務経験を持ち、日本国内有数のPVを誇る大規模Webサービスで事業部長・CTOを複数社で歴任。Windows/iOS/Android/Webと技術の変遷を経験し、現在はAIネイティブへの変革に注力。DevGENTでは、AIコードエディタ・自動化ツール・LLMの実践的な使い方を日英西3言語で発信中。

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